AX ブエノスアイレス:ocho | ハーレム通信




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ブエノスアイレス:ocho
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大学時代に薫から、こんな話を聞いたことがある。

未央は中学生の時に母親を亡くし、それから製鉄会社に勤めている父親と二つ下の弟と三人家族になった。それから彼女が母親の代わりをつとめ始め、家事いっさいを担当していたという。

だからなのか、常に母親のような役割をしながら友だちとつきあってしまうということを、薫はぼくに言ったのだった。そして、ああ、そうだ、その時ぼくは未央に彼氏がいると聞かされたのだった。とてもよくできた人だって。

「困ったことにそういう風になってしまうの。それはもう、仕方のないことなのよ。毎朝コーヒーを飲まないと目が覚めないのと同じように。知らないうちにそうなっちゃうのよ。
「習慣っておそろしいよね」と、たまたまぼくら二人しかいなかったサークルの部室で未央は言ったのだった。

ぼくはそのとき「男なんて慢性的にマザコンなんだから、なんだかんだと言ったってうれしがっているよ」と言ったら、未央は部室内に響き渡る声を上げて笑い「残念ながら、違うのよ」と、どんなに緊急な用事であっても、受け付け時間が終わったらいっさい何もしてくれない、融通の利かない役所で働いている人のように、きっぱりと言ったのだった。

「あたしってね、口うるさいから、うっとうしくなっちゃうみたい。物事をハッキリ言いすぎるし、ハッキリさせたがるし。曖昧なのっていうのがキライなのよね。でも、そういうのが可愛くないみたいよ。それにあたしから言わせれば、多くの男の人は女より上の立場に立ちたがる、支配したがる傾向があるわね」。

それから未央は大きなため息をつき「あたしだって甘えたいのよ、思いっきり好きな人に。でもね、そのタイミングがわからないの、困ったことに」と言った。

「キミは口うるさくなんかないよ。少なくともぼくにとっては」とだけぼくは言った。キミは魅力的で可愛くって、そしてぼくは決して支配的な男なんかじゃないという言葉を冷め切ったコーヒーと一緒に飲み込んで。
「ありがとう」と、未央は微笑みながらぼくを見て、言った。

「まるで高校生のようだ」と、未央を駅まで送ったあと、薫と一緒に帰りながらぼくはつぶやき夜空を見上げる。薫もぼくにつられて夜空を見上げた。都会で夜空を見上げたところでほんの数えるくらいの星しか見えない。

昔、小学生の時に言った長野県の白馬村で見た夜空が、星の重さに耐えられなく星が降ってくるような、そんな星空をもう一度見てみたい。流星が数えきれないくらい流れた、あの星空を。そしてぼくは星に願いごとをつぶやくのだ。

ちょっと待て、願い事だって?

地面に身体が食い込むくらい、ぼくは大きなため息をした。

本当に、とぼくは思う。
一体何を考えているんだってね。
ぼくはもう28歳になっている。そんな男が星に願いごとを賭けたいだって? 本当にどうかしているよ。

ぼくは未央に恋に堕ちてからすでに二年経っていた。
だけど彼女がぼくのバイト先に来る以前で彼女と二人っきりで逢うということは、未央が誘ってくれる以外(つまりぼくからは何の誘いもかけたことはないってこと)何もなかった。

ぼくは彼女に対して何一つとして行動を起こしていなかったのだ。

くどいようだけど、二年という時間の間に。そんな人間の願い事を叶えてくれるほど神様はヒマじゃないだろう。

「哲朗。いまどきの高校生はね、あたしたちなんかより、ずーっと積極的なのよ」
別れ際に薫は、ぼくの胸元に人差し指をあて「わかっているわよね?」といった意味を含めた表情で、そう言った。

そして日本全土で海開きが行われたある夏の日、未央はぼくらの前から姿を消したのだった。


何の予告もなく。
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