AX ブエノスアイレス:siete | ハーレム通信




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ブエノスアイレス:siete
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大学時代に、ぼくと薫と未央という組み合わせで幾度ともなく飲みに出かけたことはあったけれど、卒業してからその3人で飲みに出かけたのは、驚くべきことに一度しかなかった。ぼくと薫の二人でっていうパターンは何度もあったのに。

その貴重な飲み会は、新宿の歌舞伎町にある韓国スタイルの焼き肉屋が舞台で、今から二年前の話だ。それはちょうど薫が田島くんから「告白」され、未央が「パワーが欲しい」と言っていた時期にあたる。そして季節は新緑が太陽の日差しをこぼれんばかり浴び始めた時だった。

薫と未央、どちらともなくこれからやってくる夏に備えて(どうやらその前にやって来る梅雨は彼女たちの頭には入ってなかったようだ)肉を食べようという話になり、炭火で食べれるお店に行ったのだった。そのお店はお肉だけでなく地酒も美味しく、そして値段も良心的だった。

ぼくらは久しぶりにあった友だちがやるように近況を聞き出し、といっても三人一緒に集まらなかっただけで、お互いのことはわかりきっていたのだった。

「そういえば未央、高階さんと分かれたんだって?」薫は前菜に取ったごま油の味が効いた春雨の炒め物を取り分けながら訊いた。「うん、そう」と、あっさりと未央は返事をした。

ぼくはこの事実を聞いた瞬間、それはほんの一瞬だけど、マンガなんかで表現されるようなぴしっていう効果音とともに、地蔵のように固まったのだった。

だってぼくはこのとき初めて未央が大学時代からずっとつきあっていたーーーそれは6年にも及ぶーーー恋人と別れたって知ったから。そしてマヌケなことに、未央に彼氏がいるなんて、砂漠に雨が降ることがあるなんて信じられないように、信じてなかった。

いや、この言い方には語弊がある。
ぼくは彼女に彼氏がいることは知っていた。
だけど彼女と井の頭線渋谷駅の改札口で再会し、ぼく一人だけが彼女に恋に堕ち、そして彼女はぼくのバイト先で週に何時間も一緒に過ごしていたから、ぼくは自分の都合のいいように解釈をしてしまったのだろう。それに(それはある意味当たり前のことなんだろうか? どうもぼくにはその辺りがよくわからない)未央はいっさい恋人の話をしなかったのだ。

「卒業してからずっと遠距離恋愛だったじゃない。それに最近はひんぱんにも会っていなかったから、うん、そうね、別れたっていってもとくに生活に何の支障もないのよ。本当に。日常生活に何の変化もないの」

そう未央は言いながら、お店特製のにごり酒を字のごとくぐいっと飲み、カルビ肉を素早く胃に収めた。

ぼくはどうしてその彼と別れてしまったのかすごく興味があったけれど、なんだか訊いてはいけないような気がしたし、実際問題としてどう聞き出したらいいのか考えあぐねていたら「どうして別れたの?」と、いとも簡単に、あっさりと薫が訊いたのだった。

「多分、ううん、きっとあたしが彼の要求ほど甘えなかったからね」。未央はちょっと、初めてビールの苦味がわかったような少女のような表情をして言ったのだった。

「それだけ? そんな了見の狭い人だったの? 高階さん」薫は眉間にしわを寄せて訊いた。「そんな人には見えなかったけれどな」と、付け加えて。

未央は唇の端だけを持ち上げるようなほほえみをしながら、網の上に乗っている肉とタマネギの輪切りを丁寧にひっくり返した。ぼくはちょっと煙にむせる振りをして咳払いをし「だけど女の人って甘えるのが好きじゃないの? 甘やかされるのも好きじゃないの?」と訊いた。

「うーん」と言って未央は右手の人差し指を立て、その指でちょっとつきだした唇を軽く叩いた。それは彼女が考えているときにするクセだった。「一般的にはね」

「キミは違うの?」
「甘えることに慣れてないの、あたし」

それから未央は何もかも見透かすようなシャーマンのような眼をして「哲ちゃんは彼女をすごく、つきあっている彼女のことを甘やかしそうね」と言い「哲っちゃんはやさしいからね」と、付け加えた。

「その通りよ。哲朗は甘やかし過ぎなのよ。よくわかってるじゃない、未央」と、薫は程良く焼き上がったカルビ肉をサンチュと呼ばれるレタスのような野菜に巻きながら言ったのだった。

ぼくはとりあえずバツが悪そうな顔をして笑った。

そうさ、紛れもなくその通りだ。
ぼくは相手を必要以上に甘やかす傾向があることは認めよう。だけどそれは違うんだ、残念ながら。ぼくはけっして優しくないんだ。

ただ、臆病なだけなんだ。

常に他人から嫌われることを世界中の誰よりも、そう、いつ死刑宣告され殺されるかもしれない無実の罪で起訴されている人間のように、恐れているんだ。

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