AX ブエノスアイレス:cinco | ハーレム通信




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ブエノスアイレス:cinco
river



「ねえ、アルゼンチンの首都のブエノスアイレスって、東京と対極にあるって知っていた? 赤道でね、こう、パタンと半分に折ると、東京の位置がブエノスアイレスになるの。面白いと思わない? ってことはさ、東京から地球に針をまっすぐ刺したらブエノスアイレスを突くってことなのかな。
「ねえ、ブエノスアイレスの意味って知ってる? 哲っちゃん」

未央は、アメリカ人が撮ったモノクロの写真集に載ってるバンドネオン(それがタンゴを演奏するときに欠かせない楽器で、アコーディオンのような形をしていた)を抱いている、アルゼンチン人のタンゴ演奏者の写真を見ながら言ったのだった。

ぼくは、いつものようにお客は未央一人しかいない、ぼくのバイト先で本を読んでいた。フィデロ・カストロ独裁政権下で生き、苦しみ、のちにアメリカ合衆国に亡命したキューバ人作家の自伝を。そしてもちろん、ぼくは未央の質問には答えられなかった。

どうして未央は突然、南米のパリと呼ばれているアルゼンチンの首都、ブエノスアイレスのことを言い出したのだろう。

答えは簡単だ。未央は落ち込んでいた。彼女が今まで描いた数々の作品が商業的にうまくいっていなかったのだ。

ぼくらが存在しているこの世の中には、たくさんの雑誌があふれていて、彼女のように絵を描いて、お金を稼いでいる人がたくさんいる。そう、ぼくが目指している文字を駆使してお金を稼いでいる人がたくさんいるように。そして、その中でもプロとしてイラストで生計を立てていきたいと思っていて、自分が気に入った出版社や雑誌で仕事をしていきたいと思うのは当然のことだろう。

だけど編集者は、未央の描く作品は決して悪くはないけれど、ずば抜けて良いわけでもないと思っているようだ。強力な個性があるわけじゃないから、彼女を使う必要はとくにはないし、彼女じゃなくてもことは足りている。だから彼女がイラストを描くのを辞めても何の支障もない。

簡潔にいうと不もなく可もなく。

このように彼女が描いたイラストを判断したのだ。それも多くの編集者が。

現実は厳しかった。そう、何も準備もせず初めてシベリアの冬を越さなければならなかったように。

「判っているの、判っているのよ。選ばれていない人間は物事をなし得るのに時間がかかるってね。よく言われるもの。時間が解決するって。描き続けていればいつかは報われるってね。でもね、あたしは卒業する前からずっとやってきているのよ、ずーーーーっと。ねえ、一体いつまで続ければいいの? いつまで続けたらあたしは報われるの?」

未央は悩んでいた。このまま変わらず同じスタイルで作品を作っていくべきなのだろうかって。

確かに昔と比べて確かに仕事は増えた。だけどそれは未央がやりたい仕事とは、あまりにもかけ離れ過ぎていた。そして、彼女の生活費の多くのパーセンテージを占めていたのは、相変わらず学生時代から続けているカフェでの仕事だった。

「つまりはあたしには才能がないってことよね。絵を描くってことに関しては。接客する才能のほうが高いみたいよ、どうやら」

ぼくはそれに関して何の返事もできなかった。
外人に英語で話しかけられて意味もわからないのに曖昧に笑っているように、そうすることしか、ぼくにはできなかった。

だって、未央と違ってぼくは、編集部に自分の作品を持ち込みをしたどころか投稿すらしたことがない。いや。そもそも作品自体をまだ一度としてきちんと書き上げたことすらないんだ。文章を、文字をつづって生活を成り立てたいなんて大きなことを言っておきながら、作品を作ったことがないんだ。

こんなぼくに何が言える? 

何かを言ったところでそれは砂漠に映る陽炎のように実態のない、存在感のないものと一緒だ。
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