AX ブエノスアイレス:dos | ハーレム通信




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ブエノスアイレス:dos
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「それってさー、あまりにも他力本願過ぎじゃないの? 世の中ってそう甘いもんじゃないよ。もっとアグレッシブに行かなきゃダメだよ、哲朗。アクションしなきゃさ。未央ってもてるんだよ、知ってると思うけれど」

気がつけば10年来のつきあいになる女友だちの薫に、そう言われた。よく言うよ、とぼくは心の中でつぶやき、彼女に言う。

「7年間もずーーーーーーーーっと一人の男を想い続けてきて、何も行動しなかったキミに言われても説得力に欠けるね」。

でも最近、そんな薫に彼氏ができた。

「ねえ、教えてくれないかな。一体全体何が起きたのかってさ。薫も知っての通りぼくは未央のことをずっと想っている。もう4年もだ。薫だって同じように田島くんを7年も想い続けていたじゃないか。でも今は、田島くんじゃない彼氏ができた。7年間想っていた田島くんと今の彼氏。その辺の気持ちの塩梅はどうなっているんだろう」

大学で初めて薫と会ったとき、ぼくらは一瞬にして仲良くなった。ぼくらはいつも二人でいろんな場所へ出かけ、観たり聞いたり食べたりして、日々を過ごしてた。ぼくは基本的に長い時間他人と一緒にいることが苦手だったけれど、薫に対してはそんなことはなかった。そして不思議なことにぼくらの間には、一般的な男女の間に生まれやすい恋愛感情はなく、それは本当に不思議なことなんだけれど、そういった感情はいっさいぼくらの間には生まれてこなかった。共通の友だちもそう思っていたのか、ぼくらの仲の良さは女子高校生のようだった。つまり、意味もなくトイレまで一緒にでかけてしまう、そんな感じ。

たまに「どうしてつきあわないのか?」「本当はつきあっているんじゃないのか?」と訊かれたこともあったし、事実そういったことになってもおかしくなくきっかけは多々あった。でもぼくたちはお互いに顔を見合わせてこう言うだろう「ノー・サンキュー」ってね。

そして薫は田島くんと出会って、彼女一人だけ恋に堕ちた。ぼくも未央と会って、彼女に恋に堕ちた。

ぼくは薫がどのくらい田島くんのことが好きだったかを知っている。

それは7年にも及ぶ長い歳月ーーー小学1年生が中学1年生になる、もしくは後1年で苗木だった柿の木に初めて実が成るほどの時間ーーーで、浮気することなく一途に。

薫はぼくによく言ったんだ「あたしは田島の役に立ちたいの。それがどんなに他人から見てもばかばかしいことでも。彼が少しでも幸せを感じてくれうのなら、それでいいの」。薫は恋する女の手本のようだった。例えそれが独りよがりであっても。だけど、ある事件が薫を襲う。

それは薫が田島くんに恋に堕ちて5年目のことだった。薫は彼から「好きな男がいる」と告白されたのだった。そう、薫が愛してやまない彼は同性愛者だった。

その日の夜、薫はぼくのバイトが終わる時間前にバイト先にやってきて、お酒を飲みたいという彼女に付き添って、一度だけ入ったことのある、オープンカフェバーへ行った。そこのバーカウンターについて、ぼくはストリチナヤウォッカのトニック割を頼み、薫はタンカレートニックのオン・ザ・ロックを頼んだ。

彼女の目はM78星雲の果ての一点を見つめ、右手に持ったマルボロライトは一口吸われただけで、ボサノバの音に合わせて煙がゆるりと踊り、あとはすべて灰になってしまった。薫はまるでロダンが作った彫刻のように、感情と躍動感がブロンズの中に閉じこめられたみたいだった。動かなかった。

そして一言、銀河系の果てから戻ってきてから、こうつぶやいた。

「それでも田島のことが好きなの、どうしようもないくらいに」

彼女の気持ちは万里の長城のように揺るがなかった。
そして今、田島くんはオランダの首都アムステルダムに行き、ボーイフレンドと一緒に生活をしているという。



「そうだな、あのころのあたしは恋に恋していたの。現実をね、ぐーっと地球の反対側まで押しやっていたの。アルゼンチンのブエノスアイレスまでね。
「なんて言うのかな、何も産み出さない、非生産的時間とも言えるんじゃないかな」

受話器の向こうから、ライターで火をつける音が聞こえる。

「マロス・アイレスってことだ」
「マロス・アイレス?」
「うん。悪い空気。汚い空気。美味しくない空気。“ブエノス・アイレス”ってキレイで美味しい空気って意味なんだよ、スペイン語でさ。その反対語だよ。マロス・アイレスってね。直訳すると」
薫は口の中で何かをつぶやき、こう言った。
「哲朗、あんたいったいいつスペイン語なんて勉強したのよ」
実は未央から教えてもらった。
彼女はスペイン語の音の響きが面白いと言って、そして日本と反対側にあるアルゼンチンの首都のブエノスアイレスの意味を教えてくれたのだ。

「つまりね、あたしが何が言いたいかっていうと、やっぱりバーチャルはリアルに負けてしまうってことよ。そう思ったの、あたし、つくづく」

薫には今、現実に彼女を抱きしめてくれる人がいる。でもぼくにはいない。いないのだ。

ぼくがこのまま未央のことを想い続けることは、薫が言ったように、何も産み出さない、バーチャルな世界で生きるみたいなものなんだろうか?
| 小説 | 11:26 | - | - |
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