AX ブエノスアイレス:uno | ハーレム通信




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ブエノスアイレス:uno
maria



ああ、まただ、まいったな。

ぼくは半分ほどしか飲んでいないビールのグラスを持ちながら、そう頭の中でつぶやいた。そして気持ちを落ち着けるためにグラスを口にしたけれど、ビールはすっかりぬるくなってて、不自然な粘りだけが口に残った。

「誕生日パーティーをやるから、哲ちゃんもおいでよ」っていう、未央の誘いに浮かれて調子に乗って、来るんじゃなかった。いるはずの知り合いが、誰一人として、申し合わせたように来ていない。

目の前では、今はやりのラテン音楽が緩やかに流れ、それに会わせて何人かの人たちが踊っている。タバコと煙と薄暗いライティングの中でほほえむ未央だけが、かろうじて判別できる。

「知り合いが場所を提供してくれるって言うの。大きくないんだけれどバーもあって、踊れるスペースもあるの。要するにイベントをしたいだけなのよ。あたしの誕生日を利用してね」

30歳にしてぼくは気がついたことがある。というより、ずっと認めたくなかったことだけど、認めざるを得ないってことを。

哲朗って友だちが多いってよく言われるけれど、そんなことはない。そういってくる人のほうが友だちが多いとぼくは思っている。

確かにぼくは知り合いが多いかもしれないけれど、でもそれは友だちとは違う。事実休みの日だって一人でいる時間が多いし、映画にだって買物にだってほとんど一人で行く。プロ野球を一人で何度も見に行ったことだってあるし。ヒマだから誰かの家に行って、一緒にダラダラ過ごすことなんて考えられない。

だけど他の人はそうやって過ごすのだ。淋しいから誰かと一緒にいる。多分それが圧倒的な、一般的な考えだ。でもどうやらぼくにの頭の中にはそういった選択権はないらしい。
他人と一緒にいて何かのトラブルを起こすくらいなら、誰とも一緒にいなくていい。それなら一人でいたい。結局面倒なのだ、何もかもが。だから必然的にぼくは一人で行動することが必然的に多くなる。

だいたい自分一人の時間を楽しめなくって、どうして他人と一緒に楽しめるんだ?
 
いや、違う。ぼくは他人から、ぼくという人間がつまらないって思われることに、常に恐れを抱いているのだ。

そうさ、ぼくはどうしようもないくらいに孤独でつまらない人間なんだ、本当に。呆れるくらいに。ぼくが他人に見せる笑顔の裏には常に空間がーーーそれはブラジルの3分の2を占めるくらい大きなアマゾンのような空間がーーーとめどめもなく広がっている。

だからぼくは他人の人と一緒にいても、いったいどんな話をしたらいいのか、どんな態度をとったらいいのかわからなくなる。必要以上に緊張してしまう、リラックスできない。

「仕事をしている人なら、その仕事内容を訊けばいいのよ」
それから?
「趣味とか」
それから?
「ドラフトビールの泡をどうやったらうまく作れるとか」
それから?
「ラッキーナンバー」
それから? それから? それから?

例えその答えを引き出したとしても、その答えに対しての返事が出てこない。ぼくの思考回路は停止してしまう。
そしてまた今日、会話が途切れてしまい、相手の人は知人を見つけてぼくから去っていった。そこにはビールと同じ苦みとぬるさから出る後味の悪さしか残らなかった。

本当に、とぼくは思う。人はどうやって他人とうまくコミュニケーションしているんだろう。ぼくには一体全体何が欠落しているのだろう。

「そういうのを何ていうか知っている? 自意識過剰っていうのよ。いいじゃない、他人にどういう風に思われたって。哲朗くんは自分が思っているほどつまらない人間じゃないよ。あたし、哲朗くんと一緒にいるの、好きだな」

未央、キミはほほえみながらぼくにそう言ったね、出会って間もないときに。単純だけど、ぼくはキミに恋をしたよ、その瞬間に。

ぼくは長い間、自由に呼吸したいと思っていた、ずっと、手足を伸ばして。ぼくは体育館のような大きな空間の端っこに体育座りをし、頭を抱え込みながらじっと誰かに救われることを待っていた、かたくなに。きっと誰かがぼくをみつけてくれるだろうと、そう思っていた。

そしてぼくはわかってしまった。それがキミ、未央だっていうことを。

これは直感だ。意味なんてない。ぼくはそう感じてしまった。
いつの日か、近い明日ではないけれど、そう遠くない未来にキミがぼくを救ってくれる。

そうなることを知っている。それはもう、変えることのできない事実だ。
| 小説 | 11:29 | - | - |
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